短歌のピーナツ

堂園昌彦・永井祐・土岐友浩が歌書を読みます。

第11回 『現代の第一歌集―次代の群像』

吉田恭大

現代の第一歌集―次代の群像

現代の第一歌集―次代の群像

 

 

こんにちは、吉田恭大です。ご縁あってゲストに呼んでいただいて、久々に本の山を掘り返しました。

 

土岐さんが『桜前線開架宣言』を取り上げていたので、もう少し前の若手のアンソロジーを読んでみます。『新響十人』(2007年・北溟社)『現代短歌の最前線』(2001年・北溟社)を探していたら、それよりもう少し前のものが出てきました。

 

『現代の第一歌集―次代の群像』(1993年・ながらみ書房) 

昭和61年より平成3年12月までに刊行された戦後生まれの歌人75名による第一歌集のアンソロジー。本書により現代短歌の若い世代の動向が一目瞭然できる。短歌入門書として最適!!


と帯にある通り、アンソロジーとしてはそれなりに網羅的なボリュームがある。

 

各項は刊行順に並んでおり、例えば昭和62年(1987年)には小島ゆかり『水陽炎(みづかげろふ)』、俵万智『サラダ記念日』、大津仁昭『海を見にゆく』、加藤治郎『サニー・サイドアップ』などが出ていることが分かる。『サラダ記念日』前後というと大雑把な認識としてどうしても「ライトバース/ニューウェーブ」の印象が強いが、作者毎に追っていくと、当然ながらみんながみんな口語というわけではない。

 

それぞれの第一歌集から抄録50首、「刊行のころ」という短文、略歴と「ノート」として今井恵子・田島邦彦・藤原龍一郎・古谷智子・武藤雅治による短い解説が付されている。

 

それと巻末に「第一歌集に関するアンケ―ト」があり、これが中々面白い。

①歌集を出されたのは何歳のときで、発行部数は何部でしたか。
②戦後短歌の中から、好きな愛誦歌を二首あげて下さい。
③短歌を作られるようになった動機について記して下さい。

例えば、1988年に『青年霊歌』を刊行した荻原裕幸はこんな感じ。

①二十五歳・五〇〇部
②回答不可能
③十四、五歳の頃、井上陽水に狂つてシンガーソングライターにあこがれてゐた。やがてセンスの悪さから音楽をあきらめ、自由詩を書いてゐた。ある日ふとしたことから寺山修司を体験した。少しあとに塚本邦雄を体験した。十七歳だつた。月並みな言ひ方にしかならないが「これしかない」と思つた。恐いもの知らずの十代は、ジャパネスクなランボーをこころざしたのだつた。これを言ふと必ず笑はれるのだが、本当の話である。

引用終わり。「刊行のころ」もそうなのだけれど、それぞれがエピソードをしっかり披瀝しているところが楽しい。きっかけとして『蛍雪時代』の投稿欄を挙げている人(小池正利、吉野裕之)がいたりするのも、時代を感じる。愛誦歌として上がっているのはやはり寺山と、それから塚本が多い。いま同じアンケートを、ここ5年くらいで第一歌集を出した人々に取ったらどんな回答が集まるだろうか。

 

ながらみ書房からは同様のコンセプトで第一歌集から採録したアンソロジーが計6冊出ている。これについては光森裕樹さんがウェブサイト「GORANNNO-SPONSOR.com」で取り上げられていて、アンケートから集計したデータも公開されている。

『処女歌集の風景 ―戦後派歌人の総展望』(1987年)
『第一歌集の世界 ―青春歌のかがやき』(1989年)
『私の第一歌集(上・下)』(1992年)
『現代の第一歌集 ―次代の群像』(1993年)
『現代短歌の新しい風』(1995年)

『ながらみ書房による第一歌集を中心としたアンソロジー』(2010.3.6)
http://www.goranno-sponsor.com/blog/2010/03/post-2.html

『第一歌集の初版発行部数』(2010.3.6)
http://www.goranno-sponsor.com/blog/2010/03/post.html

『第一歌集の収録歌数』(2010.2.15)
http://www.goranno-sponsor.com/blog/2010/02/post-1.html

 

ちなみに、93年の『現代の第一歌集』収録歌人のうち、先に挙げた2001年刊行の『現代短歌の最前線』上・下巻の計20人の中に収録されているのは、坂井修一、大田美和、川野里子、加藤治郎、大辻隆弘、小島ゆかり辰巳泰子、林和清、穂村弘水原紫苑米川千嘉子、の11人。


この面子と、さらに2005年刊行開始の邑書林『セレクション歌人』シリーズのラインナップを見ていくと、総合誌をぱらぱらめくっていても何となく名前と歌が一致して「こんな人がいるらしい」という印象がでてくる。

 

『現代の第一歌集』75人の中で、第二歌集を出さずに、あるいはそれ以降に短歌から遠ざかっていった人はどのくらいいるだろうか。この本で初めて名前を知った人でも、試しにgoogleにかけてみると、断片的でもそれなりに情報は出てくる。

 

もしかすると平成以降で、検索エンジンに引っかからない作者名は無いのかもしれない。

 

知らない人の知らない歌集も、検索すればその在り処くらいは分かる。歌集そのものにアクセスするのは、相変わらず骨が折れるのだけれども。

 

実験室のむかうの時間と夏樫のかたきひかりを曳きて来るなり/米川千嘉子『夏空の櫂』(1988年)

 

吉田恭大:1989年鳥取生まれ。早稲田短歌会OB、塔短歌会所属。Twitter@nanka_daya